私の管理職デビューはほろ苦い経験からスタートした

「初めての部下が新入社員」
私はその話を聞いて、気が重くなりました。
仕事をどう任せたらいいのか、見当がつかなかったからです。

私の「管理職デビュー」はほろ苦いものでした。今日はその経験についてです。

望むと望まざるとにかからわらず、「リーダー」という立場になってしまい、自分に務まるだろうかと不安を抱えている方もいらっしゃると思います。そうした不安をお持ちの方へ、少しでも参考になれば幸いです。

1.自分のことで精一杯なのに、初めての部下は新入社員だった

私は2006年に課長職に昇格しました。転職で入社してから2年後のことでした。当時は、社内で女性管理職登用の方針が打ち出された頃でした。面接試験で「昇格試験に推薦されたことをどう感じていますか?」と質問されたとき、「女性の登用拡大という会社の方針で声をかけて頂いたのだと考えています」と答えたことを、今でもよく覚えています。

当時私の勤めていた職場は、稼働したばかりの工場の運営に加え、さらに新しい工場を建設する仕事を抱えていました。私は部長直下の部下として、部長から直接指示を受けて資料を作成したり、急に発生したイレギュラーな仕事を担当していました。

職場は男性ばかりでしたので、昇格試験を受ける際、上司である部長からは「女性のあなたには女性の部下がいいと思う。4月に入社する女性の新入社員をひとり、あなたの部下にするから」と言われていました。私は「初めての部下が新入社員」と聞いて、気が重くなりました。仕事をどう任せたらよいか見当がつかなかったからです。

その頃、私は経験したことのない大きな仕事を任されていて、自分のことで精一杯だったのです。自分だって分からないことばかりなのに、新入社員に教えることなんてできるだろうかと思うと、不安でたまりませんでした。

案の定、私の不安は的中しました。私は彼女に仕事らしい仕事を任せることができませんでした。それから、数ヵ月。明るい性格だった彼女の顔から、笑顔が消えていたのです。その後、彼女は体調を崩して休職し、結局会社を辞めてしまいました。休職するとき、「お世話になりました」と言って、彼女は私に手紙を手渡してくれました。その最後に書かれていた一文に私は胸をえぐられました。

「課長は何においても完璧で、私なんかには雲の上のようでした。役に立てなくてごめんなさい」

役に立てなかったのは私の方なのにと思うと、自分の無力さに泣けてきました。

「私もわからないんだけどさ、一緒にやろう」

そう言えたら良かったのにと、今でも悔やまれる思い出です。

2.大事なことは目線を「相手に」向けることだった

その後、中途採用で入社してきた男性社員が部下になりました。一から説明しなくても仕事の内容は理解してもらえるし、自分で仕事を見つけてきてくれるので、私は正直ホッとしていました。

仕事を任せていたかというと、決してそうではなく、自分は自分の仕事を抱えたままでした。時間が足りず、やりたいと思っていてもできなかったことを部下にやってもらうことで、なんとなく管理職の体を成していたという感じです。

それから数年後、部内の男性課長の異動に伴い、私が後を引き継ぎ、40名近くの男性部下を抱えるようになりました。10代~20代の若手社員が多く、彼らは経験不足ゆえに失敗することがたびたびありました。男性の部長や他の男性課長から叱責されて萎縮する若手社員をフォローする中で、私は少しずつ自分らしいリーダーのあり方を見つけていったように思います。

とはいえ、仕事を部下に任せることは相変わらず苦手で、同年代の男性部下からは、「課長は優しすぎます」とたしなめられて、落ち込んだこともありました。でも、一方で若手社員からは「やる気を引っ張り出してくれて、若手皆のオカンのような存在」と言ってもらえるようにもなりました。

その後、私は中国の国有企業に転職し、中国人の部門長を支える「技術部長」として約100名の部下を指導、育成することになったのです。

中国にいる間、私は「中国人の部下たちに、何を残せるだろうか」ということをいつも考えていました。すると、「仕事を増やしたら申し訳ないかも」とか、「こんなことを言ったら嫌がられるのではないか」などという思いは、一度も浮かんできませんでした。

「実力をつけ、ステップアップしていきたい」と思っている部下の夢や目標を応援しようという気持ちで向き合えば、「負担をかけるのではないか」などという気兼ねは不要だと気づいたからです。

それまでの私は、「自分がどう思われるか」をいつも気にしていたのです。

「管理職としてふさわしくないと思われるのではないか」
「こんなことを頼んだら、嫌がられるのではないか」
「私の判断が間違っていたらどうしよう」

でも、目の前にいる部下にどうなってほしいのか。
目線を自分ではなく、「相手」に向けてみたら、自分のやるべきことがみえてきました。
何よりも、「こわい」「自信がない」という気持ちを乗り越えることができたのです。「誰かのため」というのは、とてつもないパワーがあるものなのです。

今、リーダーとして活躍されている女性に、お話を聞かせて頂く機会がよくあります。彼女たちに共通しているのは、「相手にどうなってもらいたいか」という思いで行動されていることです。

私の場合は、管理職生活も最後の方でやっとそのことに気付いたわけで、「もっと早くに気付けばよかった」と思っても、後の祭り。

先日十数年ぶりに昔の部下と話をしたとき、「もっと頼ってほしかったッス」と言われて、「だよねー」と苦笑いするしかありませんでした。

リーダーだから何でもできなければいけないわけじゃない。
任せるのが苦手な人は、少しずつ任せていけばいい。
自分の中にある「こわさ」「自信の無さ」に向けていた目を相手に向けてみることから始めてみて下さい。

そして、
「私もわからないけど、一緒にやろう」

そうやって一歩ずつリーダーとしての自分を育てていけばよいと、私は思っています。

それでは、また。