私たちは無意識のうちに自分や他人の可能性を狭めているかもしれない

先日名古屋へ出かけました。

猛暑の中、リクルートスーツを着て歩く女性を数名見かけました。
さすがに皆さん、上着は脱いで手に持っていましたが、長袖で胸元もきっちりしたブラウスは暑いですよね。ハンカチで額の汗をおさえながら歩く姿を見て、「頑張って」と思わずにはいられませんでした。

リクルートワークス研究所によると、2024年春卒業予定の大学生・大学院生の求人倍率は1.71倍。人材の取り合いで、企業側もあの手この手を打っているようですね。私はバブル世代なので、なんだか当時のことを思い出したりしています。でも、人気のある企業は競争率が高いのも事実。売り手市場とはいえ、厳しい就職活動を強いられている学生も多いことでしょう。

その「職業選択」、もっとさかのぼって「進路選択」において、私たちは無意識のうちに自分や他人の可能性を狭めているかもしれないというのが今日のテーマです。昔ほどではないにしても、まだまだ根強く残っている、いわゆる「アンコンシャスバイアス」は誰の心にもあるのではないでしょうか。もちろん私自身にもあります。

でも、その「アンコンシャスバイアス」をはずして、「選択していないところ」に目を向けてみたら、意外な可能性が広がっていたりします。今回は私自身の経験を紹介しながら、「職業選択」「進路選択」について考えていきます。

1.どこへ行っても「紅一点」の存在

私は工場の「動力管理」という仕事に就いていました。生産に使う電気や水を供給したり、工場から出てくる排水や排気を処理したりする仕事です。主に、工業高校を卒業した人や、大学で電気や建築、機械を専攻したような人たちが配属されます。当直勤務があったり、夜勤があったりする職場です。機械の点検やメンテナンスが主な仕事で、「電気主任技術者」「電気工事士」「ボイラー技士」などの資格取得が奨励されるような、そんな職場です。

私はもともと工業高校の卒業でもなければ、大学の工学部の卒業でもありません。工場の環境マネジメントシステム(ISO14001)を導入する仕事をするうちに、「省エネ」「廃棄物削減」といった仕事に興味を持つようになったのがきっかけで、ド素人でしたが「動力管理」の仕事に携わることになりました。

職場は男性ばかり。会社全体で見ても、動力管理の仕事をしている女性は私ひとり。おそらく業界全体でみても、すごく珍しい存在だったのではないかと思います。現に、電気主任技術者やボイラー技士などの試験会場では、いつも私は「紅一点」の存在。生物、化学系の資格試験の会場で、数人の女性を見かけるくらいでした。

2.動力管理は男女関係なくできる仕事

男ばかりの「動力管理」という職場。実際に女性には難しい仕事なのかというと、まったくそんなことはありません。もちろん、重量物の運搬とか、カチカチに絞められたボルトを外すような力のいる仕事は難しいです。でも、それ以外のことで「女だから難しい」と思うことは、ありませんでした。

むしろ、これまで女性がいなくて困っていたことの方が色々ありました。

たとえば、「女子トイレの照明が切れたので、蛍光灯を交換しなければならない」「女子更衣室の消防点検で立ち会わなければならない」というようなときです。これまで男性が対応していたのですが、事前に貼り紙をしたり、他の職場の女性に立ち会ってもらったりしていたそうです。でも、私が職場に入ることで、その仕事は私の役目となりました。

冬にドカジャン着てヘルメットをしたまま、女子トイレの蛍光灯を交換していたら、「あっ、おじさんが作業している」と言われたことはありますが(苦笑)

そのほかにも、火災警報が鳴ったときなど、全館放送で「ただいま現場を確認しています」「さきほどの警報は、誤報でした」というように、状況を知らせる仕事があったのですが、これも私がメインで担当していました。なぜかというと、「話すのが苦手」という男性社員が圧倒的に多かったからです。放送を聞く側にとっても、トーンが高めの声の方がよく通るので「女性の声の方が聞き取りやすい」と、よく言われました。

普段の点検やメンテナンスの仕事も、男女差はありません。性別ではなく、携わる技術分野の「原理原則」を知っているか、それだけの違いです。

加えて、機械のメンテナンスをしているといっても、私たちがやるのは簡易的なもので、専門的な点検は専門業者に外注します。身近な例でいえば、エアコンのフィルターの掃除や交換は自分たちでするけれど、内部の清掃や故障対応などは専門業者にお願いするのと同じです。

そうなったとき、何が必要になるかというと、状況をわかりやすく、正確に伝える能力だったり、見積金額が妥当かどうかを査定する能力だったりします。ここに「性差」はありません。

排水処理場で生産部門の担当者に説明をする筆者

3.少数派だからこそのメリット

もちろん、排水やゴミの処理などの仕事がありますから、汚れる仕事も多いです。ボイラー室なんて、夏は暑いです。高いところにのぼったり、狭い所に入り込んだり、危険な作業もあります。女性だから汚れる仕事はしなくていいというわけではありません。「女性だから危険な作業をさせてはいけない」「男性だから危険な作業をしていい」ということでもないでしょう。危険な作業があれば、誰にとっても安全にできるようにするのが、本来の姿ですよね。

私は実際に20年近くこの仕事をしてきましたが、女性だからハンデを感じたということは、一度もありませんでした。
むしろ、まだまだ少数派だからこそ、「オイシイ」ことの方が多かったです。

まず、「女性ひとり」って、珍しくて目立つので、他部門や取引先の方に、顔と名前をすぐに覚えてもらえます。

「こういう場は、むさくるしい男が出ていくより、女の人が出て行った方がいいよ」と、出番が色々回ってきます。「女の人の方がいい」の理由は、「女性の方が気がきく」「細かいことに気がつく」「子どもの扱いが上手」などなど、これもいわゆる「アンコンシャスバイアス」です。「私、そんなんじゃないけどな」と思いながら、出番=チャンスですから、そこはしれっと引き受けました。

会社にとっても、「うちは女性が活躍しています!」とアピールできる材料になります。

露出する機会が増えると、社外からも指名がくるようになります。たとえば市役所から、「今度市民向けのイベントで、話をしてほしい」など、勝手に名前が知られて仕事が回ってくるようになりました。

エコプロダクツ展で小学生に環境対策を説明する仕事も「役割」として回ってきた

と、ここまで書いて、自分で「なんか私、腹黒いやつだなぁ」と思いますが、「女性だ」っていうだけで、人よりもチャンスが回ってきたことは確かです。もちろん、会社や職場の理解、上司や職場環境に恵まれていたことは言うまでもありません。

知人の中には、仕事で赴いた現場先には女子トイレがなく、男性社員に見張ってもらいながら用を足さなければならなかったという女性もいます。同じく女性の少ない建設現場では、現場監督になったものの、職人さんが言うことを聞いてくれず悔しい思いをしたという女性もいます。

でもそれは、「女性のせい」ではないですよね。「男ばかりの職場に自分から飛び込んできたんだから、仕方ない」というのではなく、「周りが変わらなければならないときがきた」ということではないでしょうか。

4.中国では女性のプロジェクトマネジャーが活躍

日本では圧倒的に女性の少ない「動力管理」や「建設現場」ですが、中国では女性も活躍しています。

私が勤めていた中国企業では、「動力管理」の部門長は女性、建設工事をしていたときの設計会社の責任者も女性、内装工事のプロジェクトマネジャーも女性、配管・設備工事のプロジェクトマネジャーも女性でした。

配管工事の現場では、まだ30歳になる前の若い女性が現場監督を務めていました。また、工事現場の安全を監視するのも若い女性。彼女たちを馬鹿にしたり「女の子扱い」するような人はいませんでした。

動力管理の部門も、女性の技術者が数名いました。他の部門と比べると女性技術者の数は少なかったですが、電気、排水、高圧ガスの担当は女性でした。日本だったら珍しがられる存在ですが、中国では特段珍しいことでもなく、「当たり前」の光景になっていたのが、とても印象的でした。

5.選んでいない方に目を向けてみる

「リケジョ」という言葉がまだ死語になっていないように、まだまだ「理系出身の女性」が「当たり前」ではありません。さらに、「理系」といっても、女性が比較的多い分野もあれば、女性の少ない分野もあります。私が学生だった30年以上前は、化学・生物・建築・薬学系は女性が比較的多く、機械・電気・土木系は女性が少なかったです。学部の選択は、その先の職業選択と関連しているからでしょうが、「男の世界」だと判断して、最初から選ばないというのは、すごくもったいないことだと思います。

私が携わってきた仕事の分野も、今は「ビルメン女子」という言葉が誕生し、少しずつ女性の進出が進んでいるようです。「女性が働きやすいように企業側が変わることで、チャレンジする女性が増える」というのが理想ですが、そもそも女性がいない職場は、何を変えたらいいのかすら気づいていないことが多いです。チャレンジする女性がいるからこそ、企業側も変わらざるを得ないというのが現実でしょう。

それでも、私は多くの女性に、「こういう仕事もあるんだ」と、今まで女性に選ばれてこなかった仕事にも注目してもらいたいと思います。少数派だからこそ享受できるチャンスがあるだけでなく、少数派だからこそ「何を変えなければならないのか」が見えると思うからです。

これから職業の選択をする若い人たちには

「そんな仕事、女には無理なんじゃない?」
「そんな仕事、大変なんじゃない?」

という声が、自分の中から、あるいは自分の外から聞こえてきたとき、「本当に?」と問いかけてみてほしいです。そして、本当に無理なのか、本当に大変なのか、「事実」を確かめてほしいと思います。

自分の選んでいない方に、実は自分の可能性を生かせる道があるかもしれませんから。

それでは、また。