「目の前の人」にとってのメリットを示すことが上手くいくポイントだった

人に動いてほしいとき、その人にとってどのようなメリットを示すとよいというのは、よく聞く話です。

そのことは、相手が直接お金を支払ってくれるお客様だとイメージしやすいのですが、相手が「自分と同じ組織で働く人」だった場合はどうでしょうか。

今日は、私が工場の省エネ推進のリーダーをしていたときに、うまくいかなかった経験から学んだことを中心に、「人を動かす伝え方」について、お話します。


私は会社員時代、省エネを推進するリーダーをしていました。

工場のエネルギー管理者として法的に選任されていたので、省エネに対する責任があったのです。

毎月億単位の電気代を支払っていましたから、省エネは大きな課題でした。ところが、やっていることといえば「昼休みの部屋の消灯」くらい。

そんなの、月に数千円程度の削減です。

やらないよりやった方がいいですが、「もっとメスをいれるところがあるでしょう」と、私はいつも思っていました。

生産装置とか、工場内の空調とか、たくさん電気を使っているところを重点的に省エネしたかったのです。

生産に影響のない範囲で省エネできそうなところを探し、
「これをやれば月◎◎円削減できる」
と訴えましたが、いつも返ってくるのは「できない」という返事。

「なんでよ。生産していない場所の空調くらい止められるでしょ」
と言っても
「いやぁ、バランスがどうなるかわからないしね」
と相手にしてくれません。

いくらコスト削減効果を説明しても、相手に響かないのです。

ある日、部下と一緒に省エネの提案をしに行ったときのことです。

いつもの通り
「うーん、難しいね。品質に影響があるかもしれないから」
と言われたとき、私の部下がこう質問したのです。

「影響って、具体的に何がわかればいいですか」

すると相手は、変えたくない条件を色々と説明してくれました。

そのときに気づいたんです。

「コストが削減できる」
というのは会社にとってはメリットだけど、目の前の生産部の相手にとっては、何がなんでも欲しいメリットじゃないんだということに。

むしろ彼らにとっては、「変わらないこと」「今の状態を維持すること」がメリットだったんです。

コスト削減したからって、それが給料に即反映されるわけではありません。
むしろ、生産計画通りに生産できて、品質の目標を達成できるほうがいいわけです。

そこで、
「いかに変わらないか」
「変わらないことは、どのようにして確認するのか」
という点を前面に出して説明するようにしました。

そうしたら
「じゃあ、1日だけ範囲を限定してやってみますか」
という話になったのです。

限定的でもやらせてもらえたらこっちのもの。

1日やってみて、生産にはなんら影響がないことがわかると、「じゃあ1週間やってみよう」という形で進み、最終的に「前と変わらない」という結論を得て、省エネはどんどん進んでいきました。

目の前の人に動いてもらうには、その人にとっての「メリット」は何かを考えること。

言われてみれば当たり前かもしれませんが、私はそこに気づくまでに5年くらい費やしました……。

実はこのことは、出版のプロセスにおいても同じでした。

企画書をつくって企画会議に通すまでは、
「この本がいかに出版社にとってメリットがあるのか」
「目の前の編集者さんにとってどんな企画書を書けば、企画会議で承認をもらえそうか」
ということを全力で考えました。

そして執筆に入ってからは、想定している読者の方にとってどんなメリットを提供できるかということを考えながら執筆していました。

同じ1冊の本をつくるのでも、段階によって「目の前の人」が変わるのだということを学びました。

なかなか提案が通らないというときは、「大義名分」だけになっていないか、ぜひ振り返ってみてくださいね。

それでは、また。